参考資料 地震時のすべりを伴わない地盤変形について

地震による土構造物の残留変形の形態

ニューマーク-D法では、ため池等の土構造物の地震時残留変形を堤体土の強度低下を考慮したすべり変形として求めていますが、飽和した緩い盛土・支持地盤は、地震時に非排水状態で繰返し載荷を受けると初期の非排水せん断強度が小さいうえに、地震時に著しく強度低下を引き起こして、極端な場合には液状化が発生して崩壊する場合が多く見られます。
以上のことから、実務の設計では盛土・支持地盤の液状化解析の結果を安定解析に反映させることが必要となってきます。
図1.1は盛土・支持地盤の残留変形とニューマーク法によるすべり変形との関係を示したものである。すべり変形は、極限釣り合い法での安全率Fsが1より小さくなると生じるが、それ以前には盛土・支持地盤の剛性の低下が極端に生じていないので、慣性力による変形が生じています。

そこで、ここでは、盛土・支持地盤の残留変形をすべり以外の連続体としての変形とすべり変形との2つに分けて考え、前者は、せん断層の形成を伴わない非排水繰返し載荷による剛性低下の影響を考慮したFEM解析で求め、後者の残留すべり変形は、円弧すべり安定計算に基づくニューマーク法で求めます。両者による変形を足し合わせる方法は、近似的ではあるが実務的であると言えます。

図1.1 盛土・支持地盤の残留変形におけるすべり変形と連続体としての変形の関係
なお、ニューマーク法でも飽和土の非排水強度は排水強度よりも締固めに敏感に反応し、非排水繰返し載荷による強度低下が生じ、その低下速度も締固めの影響を強く受けることを考慮できる必要があり、これらの要因を考慮したニューマーク-D法は、実務上合理的です。
さらに、液状化が発生する場合には、強度および剛性の低下による変形に加え、地震後の過剰間隙水圧の消散による変形が生じることから、盛土・支持地盤の地震時残留変形を
残留変形=(すべりによる変形+地震慣性力による変形+剛性の低下による変形+過剰間隙水圧消散による変形)) =(ニューマーク‐D法による変形+非線形準静的FEMによる変形+過剰間隙水圧消散による変形)
と考える方法は、実務上合理的であると言えます。

すべりを伴う変形とすべりを伴わない変形の求め方

上述したように、ため池等の土構造物の地震時残留変形をここでは、すべりを伴う変形とすべりを伴わない変形とに分けて考え、前者のすべりを伴う変形はニューマーク-D法で、後者のすべりを伴わない変形は、非線形準静的FEMで求めるものとします。その概要を図1.2に示します。
地震時のすべりを伴う変形は、ニューマーク-D法で求め、すべりを伴わない変形は、準静的FEM解析によって求められる応答加速度による慣性力による変形とニューマーク-D法と同じ枠組みの累積損度理論による地盤の剛性低下による自重沈下による変形を足し合わせることによって求めています。

非線形準静的FEM解析(FEM-RDA)時刻歴慣性力と地震時強度・剛性の低下を考慮した自重劣化解析

非線形準静的FEM解析ステップの概略は以下の通りです。
解析ステップ①:有限要素法で地震応答解析(等価線形法 など)を行う。
解析ステップ②:各要素ごとのひずみ両振幅DAの時刻歴を、ステップ①で算出した応答応力の時刻歴を用いて累積損傷理論によって求める。この方法は、Newmark-D法においてすべり土塊のスライスのひずみDAの時刻歴を求める方法と同じである。
解析ステップ③:各要素ごとのそれぞれ設定した時刻での劣化した応力-ひずみ関係を、ステップ②で求めたその時刻におけるDAの値に応じて求める。
解析ステップ④:所定の地震動に対して、選定した複数の時刻ごとに、各要素での劣化した応力~ひずみ関係に基づいて自重およびステップ①で得られた応答加速度によって生じる慣性力を用いて準静的非線形FEM解析を行う。
解析ステップ⑤:ニューマーク-D法によるすべり変位と非線形準静的FEMによる連続体としての変形を足し合わせる

非線形準静的FEMの解析(FEM-RDA)フロー

解析事例

STEP1
有限要素法で地震応答解析(等価線形法など)を行う。
STEP2
各要素ごとのひずみ両振幅DAの時刻歴をステップ①で算出した応答応力の時刻歴を用いて累積損傷度理論によって求める。ニューマーク—D法において、すべり土塊のスライスのひずみDAの時刻歴を求める方法と同じである。
STEP3
各要素ごとのそれぞれ設定した時刻での劣化した応力~ひずみ関係をステップ②で求めたその時刻におけるDAの値に応じて求める。
STEP4
所定の地震動に対して、選定した複数の時刻ごとに各要素の劣化した応力~ひずみ関係に基づいて自重およびステップ①で得られた応答加速度によって生じる慣性力を用いて準静的非線形FEM解析を行う。
解析結果
(1)地震中に生じる堤体土の強度および剛性の低下の程度によって、時点Pと時点Rの中間で計算される残留変形が、最大値となることもある。
(2)ある時点で計算された残留変形が、その前に生じた残留変形よりも小さい場合は、残留変形は不可逆であることから、その時点での実際の残留変形は、その前に生じた残留変形を最大値であるとしている。
非線形準静的FEMの解析結果例
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