ニューマーク-D法について

ニューマーク-D法

ニューマーク-D法とは

平成27年5月に改訂された土地改良事業設計指針「ため池整備」では、レベル2地震動に対するため池等の耐震性能照査法の一つとして、長時間継続する地震動の場合は、堤体土が強度低下することを考慮した「塑性すべり解析法」を用いることが提案されています。
ニューマーク-D法は、上記「塑性すべり解析法」の一種であり、従来の標準的なニューマーク法による滑動変位量の算定法に加え、非排水繰返し載荷による継続的な強度低下特性を累積損傷度理論によって適切に評価して地震時のすべり変形を算定する手法です。

ニューマーク-D法の種類

ニューマーク-D法には、ため池等の土構造物の地震時応答特性をFEM動的応答解析で求め、地震時の土の強度低下特性を室内での非排水繰返し試験によって求める「詳細ニューマーク-D法」と、詳細法を簡易化した「SIPニューマーク-D法」の2種類があります。
詳細ニューマーク-D法は、ため池等の土構造物の地震時応答特性をFEM動的応答解析で求め、地震時の繰返し載荷による土の強度低下特性を室内の非排水繰返しせん断試験によって求めた結果を用いて解析する手法です。
これに対して、SIPニューマーク-D法では、動的応答解析は実施せず、土構造物の応答特性は、応答分布モデルに基づいて求めるか、一次元等価線形解析(SHAKE等)の結果を補正して2次元状態に適用します。また、強度低下特性は、室内実験を実施せず、国立研究開発法人 農研機構が収集した土質データより作成したSIP強度低下モデルに基づき堤体土の締固め度と物理特性等から推定しています。

ニューマーク-D法の適用

詳細ニューマーク-D法およびSIPニューマーク-D法の適用上の一例
堤高 堤体の状況 適用する手法 必要な調査・試験 備考
H≧10m 詳細ニューマーク-D法
・原位置試験
(PS検層、密度検層、標準貫入試験等)
・コアサンプリング
・物理試験一式
・締固め試験
・詳細ニューマーク-D法適用に必要な室内土質試験一式
5m≦H<10m 堤体構造が複雑な場合 詳細ニューマーク-D法
堤体構造が
比較的単純な場合
(例えば、均一型等)
SIPニューマーク-D法
・原位置試験
(PS検層、密度検層、標準貫入試験等)
・コアサンプリング
・物理試験一式
・締固め試験
・圧密非排水試験
堤体の地層構成、地質モデルおよび強度低下モデルに適用する締固め度を含む土質特性等を把握すること。
H<5m SIPニューマーク-D法
・原位置試験
(PS検層、密度検層、標準貫入試験等)
・コアサンプリング
・物理試験一式
詳細ニューマーク-D法とSIPニューマーク-D法との比較
変形解析 内容 特徴
詳細ニューマーク-D法 ため池地点での地震波形の推定 KiK-net,J-SHIS,地域防災会議等の地震波
堤体強度の設定 地震時の非排水繰返し載荷による土の強度低下を考慮
土質試験 非排水三軸圧縮試験
非排水繰返し載荷試験
堤体内応力等の推定 地震応答解析(FEM動的応答解析)
SIPニューマーク-D法 ため池地点での地震波形の推定 KiK-net,J-SHIS,地域防災会議等の地震波
堤体強度の設定 SIP強度低下モデルを採用
土質試験 非排水三軸圧縮試験
堤体内応力等の推定 応答分布の設定

ニューマーク-D法に必要な土の強度特性

ニューマーク-D法によるすべり変位の計算過程は、図1.1に示す通りです。ニューマーク-D法では、すべり面の位置に存在する土の要素が、図1.1(a)に示すように地震動によって非排水状態で不規則繰返し載荷を受けたときの、任意の時点までの繰返し載荷でその土の要素に生じる最大ひずみ振幅(以下、損傷ひずみεDと称す)を算出(図1.1-2(b))し、その損傷ひずみεDの値の増加に応じて土の非排水せん断強度を低下させています。
 地震動による不規則な繰返し荷重を受けたときの損傷ひずみεDの値(図1.1(b))は、一様な応力振幅を変化させた一連の非排水繰返しせん断試験結果(図1.1(e))に累積損傷度理論を適用して求めてます。

図1.1 ニューマーク-D法によるすべり変位の計算過程

図1.1(e)の関係は、複数の応力振幅で実施した一連の「(繰返し+単調)」載荷試験結果(図1.2)の内、繰返し載荷過程の結果を用いて構築しています。
累積損傷度理論に基づく損傷ひずみεDは、繰返し載荷によって土の要素に所定の損傷ひずみεDが生じる状態を疲労破壊としてとらえ、疲労試験における(S~N曲線)に相当する「応力振幅比SRと繰返し回数Ncとの関係から、不規則な繰返し載荷を受けた際に累積する損傷ひずみεDから算出しています。累積損傷度理論に基づく具体的な損傷ひずみεDの算出方法は、以下の通りです。
ニューマーク-D法に必要な材料特性を求める試験法

図1.2 ニューマーク-D法に必要な材料特性を求める試験法

ニューマーク-D法に必要な材料特性を求める試験法
累積損傷度理論においては、不規則荷重による損傷を以下のように考えています。
①非排水繰返し載荷試験結果から求められる「応力振幅比SRと繰返し回数Ncとの関係(図1.1(e))から、ある大きさの一様な応力振幅SRiの繰返し載荷によって、ある値の損傷ひずみを生じさせるのに必要な繰返し載荷回数が(Nc)iであった場合、大きさがSRiの地震動パルス1波によって生じる損傷ひずみεDに対する損傷度Diを下式で表わします。
②異なる大きさのせん断応力振幅の地震動パルス1波による損傷度Diは、その地震動パルスの大きさSRiに対応した(Nc)iを一連の非排水繰返し載荷試験の結果(図1.1(e))から読み取り、損傷度を1/(Nc)iから求めます。
  つまり、不規則載荷中の任意のパルスiに対して、パルスiと同一の応力両振幅比(2SR=τ/σ0’)を持つ一様の規則荷重による非排水繰返し載荷がNi回加わることによって、ある値の両振幅ひずみDAが発生したとする。その場合、そのパルスiによる損傷Diを(1/Ni)としています。


③地震動のパルス集合1~iによって生じた全損傷Dは、下式で表され、その値が1.0になれば、そのパルス集合によってひずみDAが生じると考えます。
図1.3 累積損傷度理論による損傷の定義

詳細ニューマーク-D法

詳細ニューマーク-D法は、ため池等の土構造物の地震時応答特性をFEM動的応答解析で求め、地震時の土の強度低下特性を室内での非排水繰返し試験によって求める方法です。詳細ニューマーク‐D法の変形計算フローは、以下の通りです。
STEP1
初期条件の設定
盛土・地盤系の2次元断面形状、地層、土質物性、水位線、地震波形等を設定する。
代表な堤体材料を用いて非排水繰返し載荷後単調載荷試験から、液状化強度およびせん断強度低下モデルを作成する。
STEP2
盛土内の加速度と応力の時刻歴の算定
土の剛性と減衰のひずみ依存性を考慮した等価線形化動的応答解析(全応力法)を実施して、盛土内各場所での応答加速度と作用応力の時刻歴を求める。
STEP3
初期臨界円弧すべり面の探索
土の初期非排水せん断強度を用いて、盛土内の震度が一様として円弧すべり安定計算を実施して安全率Fs=1.0となるときの最も低い降伏震度kyの臨界すべり面を探索する(スライス法)。
STEP4
臨界すべり面でのせん断強度低下過程の計算
ステップ2、3の結果からスライス底面に作用するせん断応力τwの時刻歴を算出し、非排水条件でのτwの繰り返し載荷によって低下してゆくせん断強度の時刻歴を求める。上記の計算は、非排水条件での繰り返し載荷直後に実施した非排水単調載荷試験(図1.2参照)の結果が必要である。
STEP5
ステップ4のせん断強度による低下してゆく降伏震度の時刻歴を求め、滑動開始時刻を算定する。その時刻まで、すべり面位置の変動が小さいと仮定して、ステップ4と同様な強度低下率を用いて、臨界すべり面を再度探索する(即ち、低下された強度を考慮するステップ3)。
STEP6
臨界すべり面に有意な差がでなくなるまでステップ4~5を繰り返す。
STEP7
ステップ6に得られた臨界すべり面に沿って、ステップ4の低下してゆく強度を考慮して、従来のニューマーク法と同じ原理に基づく累積滑動変位を計算する。

詳細Newmark-D法による変形計算フロー

詳細Newmark-D法による変形量の算定

地震動による繰返し載荷によって経時的に低下していく非排水ピークせん断強度に対する降伏 震度Khy以上の地震波について、地震エネルギーを変形量に換算する。

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