近年、大規模地震や集中豪雨によって日本各地に点在するため池が決壊し、下流域で人的災害を含む二次災害が発生しています。たとえば、地震災害に関しては2011年の東日本大震災では、約2,000個弱のため池が被災し、その被害総額は300億円以上にも及ぶものと想定されています。また、豪雨災害に関しては、2004年の台風23号により、兵庫県内では180か所以上のため池が決壊し、下流域では甚大な被害が発生しています。
このように広域多所に及ぶ連鎖的な被害に対して、農林水産省では地震に対して約12,000か所を『警戒ため池』に、豪雨に対しては5,700か所を『緊急な対応が必要なため池』としています。
東海・南海・東南海地震の発生や地球温暖化による集中豪雨による自然災害の危険性が増加しており、膨大な数のため池の安全対策が急務です。全国約21万箇所のため池のうち、江戸時代前に築造されたため池は約48,500箇所(農林水産省農村振興局)にも及び、築造年代が古く土質や内部構造が不明なため池に対して、簡易な調査法や耐震診断法が確立されていないのが現状です。
膨大な数のため池堤体の安全性を診断する方法には、ため池1ヶ所当たりの診断にかかる時間とコストを縮減し、短期間で数多くのため池の安全性診断が可能な手法を開発する必要があります。
実務におけるため池堤体の地震時安全性診断の方法としては、従来、すべりによる斜面安定解析法が用いられてきました。この方法は、極限つり合い法により所定の設計水平震度に対して求めたすべり安全率が所定の値(たとえば1.2)以上であることを確認する方法で実施されてきました。
しかしながら、近年、地震時に発生する過剰間隙水圧を推定して極限つり合い法ですべり安全率を求める手法や地震による非排水・繰返し載荷によって低下した剛性を用いて有限要素法による地震時残留変形量を求める手法等も実務でも採用されるようになってきています。
さらには、砂の構成式を用いた非線形動的有効応力解析法が開発され、実プロジェクトにも適用されることも多くなってきていますが、大規模プロジェクト以外では、通常複雑すぎる上に、ひずみの局所化とそれに伴うひずみ軟化を考慮した地震時すべり変形解析を行うことは容易ではありません。
一方、斜面の地震時残留変位の簡易算定法として広く知られているニューマーク法を用いる方法では、ひずみ軟化を考慮して排水条件での地震時残留すべり変位を算定する方法は既に実用化されています。
しかしながら、地震時の土のせん断強度は、非排水繰返し載荷による損傷に加え、ひずみ軟化による強度低下が生じることが指摘されており、これら強度低下を考慮するには、原位置から採取した試料を用いての非排水繰返し試験結果から求まる疲労曲線、累積ひずみ過程での強度低下モデル、および、すべり変位に伴う強度低下モデル等の関係が重要になります。
以上の背景のもと、東京理科大学・龍岡文夫教授、独立行政法人・農村工学研究所、および(株)複合技術研究所を中心に、産官学の連合体形式で、土のせん断強度に及ぼす地震時の累積損傷度やひずみ軟化を考慮した新しいニューマーク法による地震時斜面変位の予測手法を開発いたしました。
本研究会は、上記新しいニューマーク法(以下、「ニューマーク-D法」と称す)による地震時斜面変位の予測手法の普及を目的に設立され、その主な目的は下記の通りです。
本研究会の設立目的に賛同する企業および団体、研究者